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- 歴史/船小屋の歴史 へ行く。
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船小屋の発展や、文豪夏目漱石が船小屋を訪れたときのことについてです。
名前の由来
- 船小屋は、旧名を東古賀原と称え、その昔福岡県筑後国下妻郡下妻村大字尾島でした。本来この地は藩政時代、柳川立花藩下に属していて、この時代に土木用の小舟をこの地に格納していた仮の舟小屋が、矢部川の堤防上に設置されていました。この小屋は旧藩に属し、厳重な監視下におかれていました。附近の人々はみだりに立ち入ることが許されなかったので、土地の人々はこれを「御舟小屋」といって祟めていたのですが、後に至って御の字が除かれて「船小屋」という今日の名に転じたとされています。
浴場の発展
- 1886年に船小屋の鉱泉が含鉄炭酸泉で特に多量の炭酸が溶け込み、飲料に最も良く、浴用にも適することがわかると、船小屋の開発が始まりました。1888年に鉱泉浴場が開発され、さらに1893年には新浴場が設けられ、それに伴い船小屋鉱泉の効能は次第に広まり入浴客が急増しました。このため湯治客などを迎える宿泊施設の新築を企てる者が現れ、1914年には20軒もの旅館ができました。そのため村の行政方針も、長期湯治客のための衛生的な施設の提供を目指しました。
地域の発展
- 船小屋は狭い地域に市街化がすすみ、料亭、飲食店、遊戯場、土産物店、写真館、鉱泉ラムネ製造所等が道筋を埋め、温泉地に応じた商業地へ発展していきました。船小屋の各旅館には鉱泉の内湯がないため、湯治客は宿所から鉱泉浴場へ随時入湯に通いました。途中諸商店に立ち寄って用を足し、また楠林や矢部川べりを散策しました。このほか遊興には舟遊び、鮎漁をたのしみ、季節になればホタルをめでるなど、湯治場の風情をただよわせる土地柄となりました。
明治から昭和初期までは、他の観光地の開発が今のように進んでいなかったこともあって、船小屋は県南唯一の温泉地として、県内はもちろん佐賀、熊本県からも来客を迎えた。このため船小屋鉱泉組合では、堤防に桜並木を設け、屋形船を用意し、鉱泉場を改修しました。
- このように船小屋鉱泉地が開発されて10年余にして、船小屋は単に庶民の湯治場としてばかりでなく、湯治の知名士にも広く知られるように発展していきました。
夏目漱石の福岡旅行
- 漱石が熊本の第五高等学校(明治20年設立、旧制高等学校)の教授として赴任したのが明治29年4月13日。
- この年の9月に漱石は妻の鏡子を連れ、福岡にいた鏡子の叔父である中根与吉のもとを訪れたそうです。
- この時、約一週間ほど福岡をめぐる汽車旅行をしました。
- 管崎宮・香椎宮・天拝山・太宰府天満宮・観世音寺・都府楼跡・二日市温泉・梅林寺・そして船小屋に訪れ、それぞれの地で句を詠いました。
夏目漱石の詠んだ句
- 漱石が船小屋で詠んだ句は
ひやひやと 雲が来るなり 温泉の二階
(『正岡子規へ送りたる句稿その十七 九月二十五日』より)
- 漱石が船小屋に宿泊した日付は不明なので、いつ詠んだ句なのかはわかりません。しかし子規へこの句を送ったのが9月25日。それ以前に詠んだ句ということになります。まだ残暑が残る時期。清水山のあたりからのぞく、一雨きそうな雲の流れをみて詠んだ句なのではないかと考えられます。
- しかし正岡子規へ送りたる句稿その十七の中で漱石は「船後屋温泉」と記しています。
「船小屋温泉」のミスプリントではないかということで、松山市にある正岡子規記念館で調べた結果、漱石全集でも「船後屋温泉」となていました。このことから、漱石自身が謝ったもののようです。
鏡子夫人の憂鬱
- 鏡子はこの福岡旅行のことを『漱石の思ひ出』に記しています。
- 「いまではそんなことはありますまいが、その頃の九州の宿屋温泉宿の汚さ、夜具の襟も垢だらけで浴槽はぬるぬるすべって気持ち悪いったらありません。ひどく不愉快なので、私はこりこりしましてそれ以来九州旅行は誘われても行く気になれませんでした。」(夏目鏡子『漱石の思ひ出』より)
- しかし漱石夫妻が来航した明治29年当時の船小屋は、旅館新築ラッシュの勃興期であり、どの旅館からも木の香りが漂っていたことでしょう。
- おそらく鏡子夫人の育った環境や性格がそのように感じさせたのではないかと思います。東京育ちの鏡子にとって温泉といえば箱根や熱海であり,九州のような湯治を主とする温泉の宿は我慢ならなかったのではないでしょうか。
- また神経質でヒステリック。そのため、たびたび漱石を悩まし続けていたといいます。
参考資料:筑後市史 第二巻,筑後郷士史研究会誌 第37号